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No.24「一歩、一本、どこまでも」

一歩、一本、どこまでも

りんご

吾輩は主婦である。収入は、まだ少ない。子どもが生まれる前はOLをしていた。しかし産後は一変。服のサイズはLLに。
スマートなボディラインは見る影もなく、過去のものとなった。
しかし変化したのは体型だけではない。妊活十年。やっと授かった子どもは、なんと、三つ子。
それはもう寝耳に水。いや、ホースを突っ込まれたくらいの衝撃。
それでも成長に待ったなし。
よく泣く長男。よく寝る次男。よく食う三男。泣きわめく二人を両脇に抱きかかえ、足でバウンサーを押すことなんてしょっちゅう。寝静まったあと、こっそり、泣いたことだって。

 

そんな私が働きたくなった。
そうは言っても問題は山積み。預け先はどうする?お迎えは誰がする?あいにく夫は単身赴任とあって、頼れない。何よりお金!
『子育てにたかいたか〜い 保育料』と詠みたくなるほど、金額もバカにならない。
「やっぱり無理だよなあ……」
私は思い悩み、悩んだ末に、求人誌を捨てた。
しかし転機が訪れた。
小児科に行った時、受付に置いてあるビーズのアクセサリーが目についた。
「これ、かわいいですね。スタッフさんが作ったんですか?」
「こういうのを自宅で作っている方がいらっしゃるみたいです。内職って言ってたかな。」
私は少し考えた。

 

今は外で働けない。だから。
今は子どもといたい。だから。
ちょっとでもお小遣いが欲しい。だから。

 

「ちょっと内職をしてみたいんだけど」

 

夫は少し驚き、それでも最後は「やりたいんだったら」と背中を押してくれた。

 

こうして迎えたおうちワークデビュー。仕事内容はアクセサリーの作成やパーツづくり等。だがその単価を見て、思わず目を疑った。
『ボールペンのシール貼り
0.3円/本』
『ビーズブレスレッド12円/本』

 

そりゃもう失笑が止まらない。

 

それでもやった。ここで諦めるわけにいかない。そう強く言い聞かせた。とにかく内職は時間の確保が命。朝のうちに家事を済ませ、夜は三つ子を早く寝かしつける。まさに家事も育児も二刀流で二倍速。

 

だけど人生そううまくは行かない。ただでさえ細かい作業。小さなビーズをワイヤーに通すのも一苦労。結局12円のブレスレットを作るのに12分。これでは正直おカネにならない。

 

「もっと量をこなさなきゃ」

 

そう思って日中もやろうとしたがダメだった。ちいさな息子たちにとっては、ワイヤーやビーズは最高のオモチャ。ワイヤーを舐める。曲げる。ビーズをばら撒く。毎日がそのくり返し。作っては壊され、壊されては直すのくり返し。苦肉の策で子ども達にジャングルジムを購入したがこれもダメ。開始早々にケンカが勃発し、作業どころではなくなった。そもそも一本12円のブレスレットを作るために、1万2千円のジャングルジムを買う。この悲しさと言ったら、ない。

 

もう何もしてもダメなように思われた。世間から「あなたは子育てだけしてりゃ良いのよ」と言われているみたいで悲しくなった。

 

それでも働きたいと言ったら、ワガママだと言われ、母親失格と言われてしまうだろうか。「1000本達成するまでは辞めない」と心に決めた。

 

しかし予想だにしない事態がわが家を襲う。それが、新型コロナウイルスへの感染。朝は三男が、昼間は次男が、夜中に長男が次々と発熱。それはもう地獄絵図。
夫は「もしかしたら帰れるかも」と曖昧な返答。結局、一歩も外に出られぬまま、一睡もできぬまま、ただただ時間だけが過ぎていった。

 

ある日の晩のこと。息子たちに薬を飲ませていると、携帯電話が鳴った。見れば内職先である。しかし『明日が納期です』の声を聞いて、そのため息はさらに深くなる。

 

「仕上げなきゃ」

 

私は夜な夜な作業に向かった。夫によると今夜帰って来れるらしい。夫がいれば少しは遅れを取り戻すことができる。しかし、心と体は足並みを揃えて進むわけではない。途中、何度も睡魔に襲われ、頬を引っ叩いた。眠気覚ましのガムだって、噛んでいるうちにまた眠くなる。

 

「ヤバい、寝落ちした!」

 

飛び起きた時には既に朝。
だけど次の瞬間、作業台を見て、ハッとした。

 

『ガ・ン・バ・レ』

 

ワイヤーの切れ端とビーズで作った文字が机の上に。さては夫だな。リビングに置かれたスーツケースを見てピンときた。私はそれを見ながら涙が止まらなかった。

 

ガンバレ。
ガンバレよ。
君ならできる。
できるよ。

 

陰ながら私を応援する、夫のやさしさが垣間見れた気がした。



2週間後。夫は仙台に戻った。私も頓挫していた内職を再開。今日もブレスレット作りに励む。確かに三つ子の子育ては大変だ。幸せは3倍でも苦労は30倍。到底、外に働きに行くなんてできない。だけど「働きたい」という気持ちをカタチにできたら、これほど幸せなことはない。今では家族が一番の応援団。今日も「ママどうじょ」とビーズを差し出す手がどうしようもなく愛おしい。

 

「おカネにならない」と言われる仕事でも、家族の笑顔が見られれば『幸(こう)収入』。たとえ十ニ円でも、やりがいは十二分(じゅうにぶん)。

 

さあ、今日も作業に向かおう。
めざすは1000本!いつかは一万本!!
そのためにふみ出す一歩。
積み重ねる一本。

 

三つ子ママのおうちワークよ、
一歩、一本、どこまでもゆけ!!

 

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