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金澤真優
私は自分のことが嫌いだった。なぜかというと、仕事が本当にできなかったからだ。
社会人1年目、私は営業職に就いていた。会社が提供しているサービスについて深く理解するために、新入社員が営業部署に配属されるケースは多い。私の場合もそうだった。
問題は、私が人見知りで、人と話すのが苦手だったことだ。当然、営業には向いていない。クライアントのところに向かうだけで緊張してしまうし、そんな状態で商品を売ることなんてできず、成績は同期の中で1番悪かった。数字に追われる恐怖で、毎朝の通勤電車で吐き気を催していたほどだ。
上司にも相談し、半年ほど経ったタイミングで事務職に異動した。1人で黙々と作業するのは得意だったので、今度はストレスなく仕事に取り組めた。
だが、会社員はそれだけではいけない。やるべきことをこなすのは当たり前、もっと業績を上げるための仕組みを導入したり、業務上の欠陥を指摘して修正したり、何か大きな成果を出さないと評価はされないのである。いわゆる私は“可もなく不可もない社員”で、特に社内で目立つことはなく、半期に1回の表彰式で表彰される同僚たちをいつもぼんやりと見つめていた。
決して不満があったわけではない。ただ、なんとなく物足りなさは感じていた。
3年半ほど勤めた後、私は会社を辞めて、夢だったフリーライターの仕事を始めた。たまに取材で外へ出ることはあるが、基本的には在宅ワークだ。調べた情報をもとに、家でひたすら原稿を書く。1人で淡々と進められるライターの仕事は性に合っていた。
最初はまったく仕事がなく、いきなりフリーランスになったことを後悔する時もあったが、いただいた案件を1つひとつ真剣にこなしているうちに、徐々に執筆依頼が増えていった。クライアントから「また次もお願いします」と言葉をかけられると、期待に応えられたという安堵と充実感でいっぱいになる。
さらに嬉しかったのは、記事を読んだ方から感想をいただけたことだ。仕事を始めて3年ぐらい経ち、有難いことに大きめの案件を任せてもらえる機会も増えた。そういう案件は読者も多く、記事の掲載後はたくさんの反応がある。「素敵な記事ありがとうございます」「読んでいて嬉しくなりました」──そんなあたたかい言葉をいただくたびに、私も幸せな気持ちになった。書いて良かったと思うし、これからも仕事を頑張ろうという気持ちになるのだ。
たまに考えることがある。自分が会社員時代に感じていた物足りなさ──あれは、会社に自分の居場所がないように感じていたからだったのだと思う。クライアントと読者から感謝の言葉をいただくと、嬉しいとともに、なんだか自分が認められたような気分になる。仕事がこんなに楽しいと思えるようになったのは、間違いなくライターになってからだ。
会社員時代ももう少し上手くやれば、自分の居場所を見つけられたのかもしれない。もしかしたら、すでに私の居場所はあって、気づかなかっただけかもしれない。しかし、毎朝電車に乗って会社へ向かっていた頃の私は、日々の業務をこなすのに精いっぱいで、まったく余裕がなかった。家でライターの仕事を始めてからの私は、以前よりずっと自分らしく働けているように思う。
きっと、人にはそれぞれ自分に合った仕事、環境がある。自分の力を最大限に発揮できる働き方を叶えることで、そこに自分の居場所も見つけられるのではないだろうか。考えてみれば、会社勤めをしていた頃の私と今の私、中身はまったく変わってない。しかし、違う環境に身を置くだけで、人生が180度変わることがある。
今、私は自分のことが大好きだ。
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