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No.8「オンラインレッスン」

オンラインレッスン

木立慈雨

3年前に公務員を退職、外郭団体に週2日勤めながら、老後も長くできる仕事を模索してきた。役所の再任用を断ったのは、引き際が大事だと思ったからだ。いつまでも年寄りが残れば新規採用が滞り、組織の新陳代謝が進まない。かつて年寄りが窓際でふんぞり返っていたのを自分が踏襲することだけは避けたかった。
何よりも、自分で第二の仕事を探せないなんて情けない、それを自分事として実践しようと思ったのである。退路を断ち、商工会連合会の起業セミナーにも通いながらネットを使った仕事を模索してきた。退職前から東京に毎月通い、何度も落ちながら苦労して取得したアコーディオン講師資格でリアルとオンラインの教室を始めるに至った。
実際やってみると本当に苦労の連続であった。ネットで講師資格や国際コンクール上級入賞などをPRしても生徒が全く集まらない。たまに入ってくるオンラインの生徒さんはなぜかほとんどがすぐに辞めてしまう。人徳の無さ?オンラインだけに始めるのも辞めるのもハードルが低い。顔を合わせずに気軽に辞められるのは、リアルとの違いを感じざるを得ない。慰留しようとメールを送っても無しの礫。教え方もあるのだろうか。ネットの仕事は甘くなかった。
仕方なく瀬取りも始めた。ジャンクの楽器を買って修理して売る。ニーズは多くは無いが、ボチボチ仕事が入る。でも本来の気持ちとしては子どもたちに演奏の楽しさを教えたいと思っていた。無報酬で地元の放課後児童クラブや保育園などでの子ども向け演奏も続けていた。
さて、最近中学一年生の男の子がネット教室に入った。但しまるっきりの素人である。年齢差なんと50歳。共通の話題がないので話はちっとも弾まないが、お母さんが時々画面に乱入するし、歳が離れまくったぎこちないやりとりも私には楽しくてしょうがない。迷惑かなあ、などと悩みながらも変な裏技を教えたりもする。気に入ってくれて続いて欲しい。ネットを介してだが、私はいずれ君を世界の晴れ舞台に送り出したいのだ。「おうちワーク」それは私にとって多少の収入と若者の将来の活躍を両立させる必殺技だと思う。
困るのは妻が隣室でスマホ漫画を読みながらレッスンの様子に耳を澄ませていることだ。何か言いそうな気配で微妙な視線を送ってくる。レッスン時間はどこかに行ってくれないかなあ。歳の離れた先生と生徒に嫉妬しないでくれよ。貴方も愛してるのだから。

 

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