私だけの物語を紡ぐ場所:副業ライターが見つけたおうちワークの喜び
藤原光璃
朝日が差し込む静かな一室。パソコンの起動音と共に、私の「もう一つの顔」の一日が始まります。38歳、昼は会社員、夜はフリーランスのライター。おうちワークで副業を始めてから1年が経ちました。
最初は不安でいっぱいでした。仕事と副業の両立ができるのか。ライターとして通用するのか。毎日の生活にどう組み込めばいいのか。そんな悩みを抱えながらのスタートでした。
「また夜更かし?」パートナーの優しい声に、ふと我に返ります。気がつけば深夜0時。没頭しすぎて、また時間を忘れていました。「ごめん、もう少しで終わるよ」と答えながら、密かに幸せを感じます。好きなことに打ち込める時間ができた喜びを、パートナーは理解してくれているのです。
おうちワークを始めて最初に直面した課題は、「場所」でした。狭いアパートの中で、仕事専用のスペースを見つけるのは至難の業。最初は食卓を使っていましたが、食事の度に資料を片付けるのは面倒で。悩んだ末、クローゼットの中身を整理し、そこに小さな作業机を置くことにしました。「クローゼット書斎」の誕生です。狭いけれど、自分だけの空間ができた喜びは格別でした。
外付けモニターを増やしたのも、大きな転機でした。友人のおさがりをもらい、今では2画面体制。一つの画面で資料を確認しながら、別の画面で文章を書く。「これで仕事が倍速になった!」そんな単純な喜びを感じる日々です。
「荷物です」。インターホンに急いで応対します。注文していた本です。以前なら受け取れずに再配達を頼むことも多かった。「在宅だからこその利点だね」。パートナーと顔を見合わせて笑います。本を手に取りながら、新しい知識への期待に胸が高鳴ります。
本業の仕事を終えた後の時間の使い方にも、少しずつ工夫を重ねてきました。かつては疲れて帰宅するとそのままソファでごろごろ。今は軽い運動を日課に。といっても大げさなものではありません。YouTubeで見つけた5分間のストレッチ動画を真似るだけ。それでも、体も心もリフレッシュされる感覚があります。この小さな習慣が、夜の執筆への活力となっているのです。
一方で、おうちワークならではの課題もありました。一番大きいのは、「メリハリのなさ」。仕事と私生活の境目があいまいになり、いつの間にか一日中パソコンに向かっている自分に気づくことも。「これじゃあ、家族との時間が持てない」。そう反省し、あえて仕事の開始と終了の時間を決めました。終了時間の5分前になると、スマホのアラームが鳴ります。「はい、今日はここまで!」。わざと大きな声で宣言し、パソコンの電源を切ります。これが「気持ちの切り替え」に驚くほど効果がありました。
もう一つ大切にしているのが、家族との時間です。「ねえ、この宿題わからないんだけど」。子どもの声に振り返ると、不安そうな顔で問題集を抱えています。「よし、一緒に考えよう」。副業の時間を少し削っても、この瞬間を大切にしたい。むしろ、こんな何気ない日常のやりとりが、新たな記事のアイデアを生むことも。家族との時間は、仕事の質も高めてくれるのだと実感しています。
副業ライターとしての挑戦は、私に新しい世界を見せてくれました。最初は、育児や家事の合間を縫っての仕事に戸惑いもありました。しかし、少しずつ自分のリズムを掴んでいくうちに、それが強みになっていったのです。
例えば、育児の経験を活かして、子育て関連の記事を書くようになりました。自分の体験に基づいた記事は、読者からの反響も大きく、やりがいを感じます。また、家事の合間に短時間で集中して書く力も身につきました。「隙間時間の活用」という言葉の本当の意味を、身をもって学んだ気がします。
副業を始めてから、自己投資への意識も高まりました。オンラインの執筆講座を受講したり、読書量を増やしたり。これらは単に仕事のためだけでなく、自分自身の成長にもつながっています。新しい知識を得るたびに、世界が少しずつ広がっていく感覚。それは何物にも代えがたい喜びです。
経済面でも、副業の効果は徐々に現れてきました。最初は小さな金額でしたが、コツコツと積み重ねていくうちに、家計の助けになるまでに。「子どもの習い事費用が捻出できた」「ちょっとしたぜいたくができるようになった」。そんな小さな喜びが、日々の励みになっています。
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。締め切りに追われ、睡眠時間を削ることも。孤独を感じ、「このまま続けていけるのか」と不安になることも。特に、本業と副業のバランスを取るのは難しく、何度も壁にぶつかりました。
そんな時に支えになったのが、オンラインで知り合った同じ副業ライターの仲間たち。互いの苦労を分かち合い、アドバイスを交換し合う。そんな横のつながりが、私に勇気と新しいアイデアをくれました。「みんな同じように頑張っているんだ」。その思いが、困難を乗り越える力になったのです。
おうちワークは、決して楽な道のりではありませんでした。それでも、この1年で得た気づきは、私の人生を確実に豊かにしてくれました。
好きな音楽を流しながら、自分のペースで言葉を紡ぐ喜び。
家族の近くにいながら、新しい世界とつながれる充実感。
そして何より、「書くこと」への情熱を再確認できたこと。
副業としてのライティングは、私に「もう一つの人生」を与えてくれました。平凡な日常に、小さいけれど確かな変化をもたらしてくれたのです。
おうちワークは、単なる働き方の変化ではありません。それは、新しい自分と出会う旅路だったのです。時に辛くても、この選択に後悔はありません。なぜなら、毎日が少しずつ、でも確実に私を成長させてくれているから。
今日も、静かな一室で、新たな物語の種が芽吹こうとしています。その芽を大切に育てながら、明日はどんな花を咲かせられるだろう。そんな期待に胸を膨らませて、私はまた、キーボードに向かいます。
この小さな「クローゼット書斎」から、いつか大きな夢が羽ばたいていく。そう信じて、今日も私は言葉を紡ぎ続けます。